最高裁判所第二小法廷 昭和32年(オ)586号 判決 1961年4月14日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。
理由
上告人ら代理人三野昌治の上告理由について。
原審は、被上告銀行が上告人らに対し金五〇万円の約束手形金債権を有するとし、その執行を保全するため高松地方裁判所丸亀支部に申請して有体動産仮差押命令を得、これに基き同裁判所所属執行吏に委任して上告人らの共有にかかる原判示漬物用空大樽、空中樽等につき仮差押の執行をしたこと、右執行に際して、執行吏は物件の一々について仮差押の標示を貼付せず、上告人らの漬物工場事務所入口の壁に一葉の公示書を掲示するにとどめ、仮差押物件は、執行に立会していた上告人大西の同意をえて同人にその保管方を委任したが、上告人らは右物件は仮差押にかかるものであるとしてその後使用しなかつたこと、前記手形金請求の本案訴訟は結局被上告銀行の敗訴に確定したことをそれぞれ確定し、上告人らの不法仮差押による損害賠償の請求を一部認容したものである。
ところで、仮差押の執行は、債務者に対し目的物の処分を禁止するにとどまらず、仮差押の目的を達するため必要な範囲において仮差押物件の使用、管理ならびに収益を制限する効力をもつものであるが、その制限の限度は仮差押の目的物ならびにその執行方法のいかんによつて異なるのであり、本件の如く、執行吏が仮差押を執行した空樽に対しては一々差押の標示を貼付せず、公示書を掲示するにとどめ、該物件の保管を債務者の一人に委任したような場合には、債務者は、右空樽の通常の用法に従い、これを使用することを妨げられるものではないと解するのが相当である。そして、仮差押の目的物の保管を命ぜられた上告人大西が右物件を使用することができる以上は、他の上告人らを補助者として、上告人らの原判示共同事業のためにこれを使用することも、その他の通常の用法に反するものではないというべきである。されば、上告人らが前記仮差押の執行中本件空樽を使用しなかつたからといつて、そのために生じた損害を被上告銀行の責に帰することはできないとした原審の判断は正当であるといわなければならない。
論旨は、以上の説明と異なり、上告人らが本件仮差押にかかる空樽の使用を禁ぜられたものとの見解の下に、またはこれを前提として、原判決を非難するものであつて、すべて採用するをえない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 藤田八郎 裁判官 池田克 裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助)